東筑軒の「かしわめし」ができるまで

2005年12月8日、福岡県北九州市、、折尾駅前にある東筑軒の本社工場を見学させていただきました。ここの「かしわめし」は大正10年から販売しており、その味は「日本一のかしわめし」と現在でも絶賛されています。

今回は「駅弁の小窓」掲示板にもよく遊びに来て下さるハンドルネーム「東筑軒の元3号」さんがお膳立てをして下さり、工場を案内してくださったのはすでに面識がある製造部係長の西岡さんをはじめ、取締役製造部長の茅野さん、渉外部長兼構内事業部長の諸富さん、製造部課長の野口さん、製造部調整課係長の松本さん、製造部係長の鐡見さんと、まさに会社を挙げての歓迎ぶりに大変光栄でもあり、とっても恐縮いたしました。
東筑軒の本社工場は折尾駅からすぐのところにあります。駅ホーム(4・5番線)での名物立売人、山口さんも、駅弁を補充しに、15分に1度くらいは戻ってきます。

では早速、工場を見学させていただきます。特大の白衣と長靴を用意していただき、ヘアーキャップをかぶって、いざ入室です。

 

いきなり目に入ってきたのは大きなザルに入った「かしわ」の肉です。九州では鶏肉のことを「かしわ」と呼びます。これをぐつぐつと1時間以上かけて煮込んでいくのです。すると「かしわ」は柔らかくなり、ごはんを炊くおいしい鶏がらスープもできます。まったく無駄がないですよね。


大きな鍋の中で「かしわ」をほぐし、味付けしているところです。これは結構な重労働ですが、この工程で口に入る「かしわ」の出来が左右されてしまうので、熟練の技が要求されます。昔から受け継がれてきたポイントを守るため、特定の人物にしかこの作業は許されません。


次はごはんを炊きます。東筑軒の「かしわめし」のごはんには、他社の追随を許さないほど、「かしわ」エキスのしみ具合が絶妙で、しかも丸みがあり、深いコクと豊かな味わいがあるのはなぜなのか、そのあたりの秘密を探っていきます。




左上は鶏ガラスープ、そして右上は鶏から出た旨みを含む脂肪分。これらが門外不出と言われる秘伝の「特製調味料」や醤油、味醂、水との微妙な配合によって、他社に真似できない「かしわめし」のごはんを作り出しています。

下の黄色い包み、これが門外不出、秘伝の「特製調味料」だそうです。中が見えないようにしっかりと袋に入っています。私は液体を想像していましたが、なんと「粉末」なんだそうです。しかも、鍋に入れたところを見ると、これは砂糖を中心とした調味料のようです。これはもうちょっと深くレポートしなきゃいけない。そこで特別にお願いして、この謎の「特製調味料」を配合している特別室に案内してもらうことにしました。

   

そこは東筑軒本社2階のそのまた奥、「門外不出」の貼紙がある謎のドアが。。。
し・か・も、その中でうごめく人影が。。。



こ、この画像は駅弁界のスクープです!! これぞ東筑軒の前身、大正10年に筑紫軒を創始した本庄厳水(イワミ)の妻スヨが考えて以来、秘伝として代々女性だけに受け継がれてきたという、絶妙の味、秘伝の調味料をたった一人で秘密裏に調合している場面、まさにその瞬間です。・・・して、この女性は?・・・「マル秘」であり「門外不出」ということですので、謎の人物ということにしておきましょう。


さて、秘密が少しだけ明らかになったところで、再び1階の工場、調理室に戻ります。




大鍋に秘伝の調味料を豪快に入れ、醤油や味醂のタレ、鶏スープ、鶏から抽出された脂を入れ、さらに水を加えます。そして、お米の入ったごはんを炊く釜の中に入れ、一気に炊き上げます。



さあ、炊けました。湯気が立っているのがおわかりでしょうか。

さて、ここからは盛り付けラインでの調製となります。機械では決してできない「真心」を、折箱の中に詰めていく作業でもあります。伝統の手作りを守るべく、何人もの手が加わり、非常に手際よく、ベルトに載った「かしわめし」が見る見るうちに製品として仕上がっていきます。

スタートはロボットから出された280グラムのごはんを折箱に均等に敷き詰め、刻み海苔、香の物、褐色の味付け「かしわ」を配置し、そして最後は「イエローベルト」とも言うべき錦糸卵を対角線上に敷きます。さらに形を整え、蓋をして、割り箸、掛け紙をつけ、掛け紐で結びます。












こうして東筑軒「かしわめし」が誕生しました。ピース!!



「かしわめし」630円(画像提供:東筑軒)

かくして、あとは出荷を待ちます。1日に平均3000本が製造されています。

そして、今日も折尾駅4・5番線ホームでこのお方が売っておられます。
(↓ 駅ホーム立売人山口さんの画像提供:東筑軒)

ここから下はおまけ画像です。おめでたい弁当の注文があったのか、尾頭付きの鯛を入れた慶事用の仕出し弁当を作っていました。それから「大名道中駕籠かしわ 」の姿も見えます。掛け紐も何色か色分けされてかかっていました。そして、ピースをする従業員の女性には、「上ちゃん、体重が1トンなんでしょ?」と言われてしまいました。いえいえ、その10分の1でございます(苦笑)。




今回の工場見学では、職場の至るところで笑顔や「ピース」のポーズなど、とても明るく温かい空気が漂っていました。これは今までの駅弁工場見学では見られなかった光景であり、雰囲気です。私への歓迎ぶりに感謝するのはもちろんですが、従業員の皆さんが普段から仕事に誇りを持ち、ゆったりとした気持ちで働いていらっしゃるからこそ、こういう明るさ、温かさが実現しているのだと思いました。

そして、そういう駅弁に対する姿勢は駅弁の味に物理的には影響がないように思われても、実は形のない「真心」として「かしわめし」に乗り移り、はっきりと食べる人の口を通して伝わっていくものだと思います。その意味で、東筑軒の駅弁には「真心」が感じられます。そして、ホームで立売の山口さんから買うことで、そのおいしさはさらに増すのは疑う余地もありません。

全国で有名なのはもちろんですが、地元で圧倒的な人気を誇っているのは、昔も今も地元の人たちの心をつかみ、なくてはならない「心のふるさと」として、揺るぎない駅弁になっているからなのでしょうね。

東筑軒さんの従業員のみなさん、ご協力いただき、本当にどうもありがとうございました。


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